調査結果の分析・解釈の基本ルール :
はじめに
調査結果をどのように分析・解釈すれば良いのか。どんな調査においても、最も重要なステップの一つであることは疑問の余地がありません。設問設計の際、じっくり検討した項目を盛り込んだはずなのに、いざ結果を手にしたとたん、十分に分析することなく短絡的に結論を急いだり、あるいは逆にデータをいじくり回し過ぎて泥沼にはまっていくケースも見かけます。今回は、そのような分析・解釈のステップに関する主要なポイントを論じてみたいと思います。
「EX あるある」シリーズ: 既出のブログはこちら
第 1 回: 従業員向け調査を実施するにあたって
第 2 回: 調査の実施時期を決めるための検討項目
第 3 回: 従業員向け調査の設問設計で知っておきたいこと
まずは「絶対水準」と
「相対水準」のチェックから
調査の種類によって、効果的な分析手法には違いがあるにしても、データを解釈する際の最初の一歩は、何人中何人がどの選択肢を選んだのか、単純にその比率の高低を確認することからです。当たり前のことですが、思った通りの結果なのか、意外な結果なのか、そんなことを考えながら絶対水準をベースに特徴的な項目に注目するだけでもいろいろな発見があります。
一方、このような絶対水準のみに注目した分析だけでは、うまく解釈しきれない場面に遭遇するはずです。例えば、回答者の約半数が自身の業績評価に対して納得しているという結果になっていた場合、それが良い状態なのか、改善を要するような状態なのか、なかなか判断しにくいのではないでしょうか。一般に、従業員が自身に対する評価の公正さに批判的であると想定し、それでも半数の回答者が納得していると考えれば合格点かもしれませんし、あるいは半数では不十分と考えるのであれば課題にもなり得ます。
このとき、社外のベンチマークデータ(同じ設問に対する他社の平均的な結果)が存在するのであれば、「低くみえても、世の中の水準からすれば頑張っている方だ」といった、相対水準に基づく判断を加えることができます。業績評価もそうですが、報酬や中長期的なキャリア展望など、ポジティブな回答を得にくいテーマもあれば、コンプライアンスのように高い水準が当然のこととして期待されるようなテーマもあります。
社外のベンチマークが存在しない場合、例えば社内の組織別、性別、年齢別、職位別などさまざまな切り口でデータを比較することで、実態把握のためのヒントが得られます。もちろん、自組織の過去の結果との比較も、相対水準による非常に重要な分析の一つです。低い結果になった項目についても、前回調査から大幅にアップしているならば、スポットの結果を眺めるのとは異なる示唆を得ることができます。
設問項目間の「相関関係」を確認
絶対水準、相対水準による個別項目のチェックに加えて結果の解釈に有益なのは、設問項目間の相関関係から背後にあるストーリーを読み取ることです。基本的な考え方としては、重要な結果指標(KPI)に対して、影響が強いと考えられる項目を特定することです。
「エンゲージメント調査」で典型的なのは、エンゲージメントの高低を左右する他の項目(ドライバー項目)を相関係数や重回帰分析で把握するアプローチです。多くの場合、注目すべき結果指標は、調査目的に直結するような項目(例えば「エンゲージメント」)であり、それを改善していくために、密接な関連を持つテーマをフォーカスするわけです。そのほかにも、例えば、業務効率性に問題があった場合、チーム内の協力体制に関する項目をチェックすることで、チーム内での業務分担が適切に行われていないために業務効率が下がっている、というようなストーリーが浮かんできます。
EX ウェビナー 「これからの働き方と
エンゲージメントの維持・強化策」
ここで注意すべき点としては、仮に相関が高かったとしても、二つの繋がっていないテーマに対してたまたま同じような回答傾向になっていたり、逆に相関が高い項目同士の根っこが同じで、実は何ら新しい発見がないようなケースもあることです。つまり、理屈の上で、それらの関連について意味のある説明ができるか否かを慎重に見極める必要があります。
最終的には 「経験・実感」 を
ベースに判断
これまでに触れた絶対水準、相対水準、相関関係に注目した分析は、すべて定量的な視点からの解釈となります。その結果、絶対水準でも、相対水準でも低位に位置し、かつエンゲージメントとの相関が強いような項目があれば、多面的に問題が指摘されていると捉えられ、「言い訳しにくい」優先課題と考えることができます。
しかし、こうした定量的な分析のみで調査結果の解釈を完了させることができるでしょうか。例えば、ある事業本部Aでは、7割以上の回答者が「組織戦略・目標を十分理解している」とし、それが社内の全社平均を十分上回る水準だったとします。表面的には「我が組織の強み」と判断されるような結果であるわけです。それでも、もし事業本部Aにおいては、過去半年以上にわたって、毎週の定例ミーティングでリーダーが組織戦略・目標を繰り返し説明し、従業員とも議論するような活動をしていたのならどうでしょうか。7割の肯定的な回答率に対しても、物足りなさを感じるかもしれませんし、これを「強み」として安心してしまうべきではないという結論もおかしくありません。
このように定量的なデータに基づいて一定の解釈を行った上で、その時点に至るまでの組織内の活動を振り返り、経験や実感に基づく定性的な情報を組み合わせて最終的な判断を下す必要があります。そうしなければ、単に「データがそう示しているから」というだけの状況把握にとどまり、リーダー、一般従業員ともに「腹落ちしない」モヤモヤ感が残ってしまいます。なお、定性的な判断を加える際には、自由記述が生の声として有力なヒントを与えてくれることもよくあります。
分析・解釈ルールのまとめ
改めてこれまで述べてきた分析・解釈の論点を整理すると以下のようになります。
- 回答率の「絶対水準」から、そのままストレートに傾向を把握
- 社内外の組織や属性単位と比較することで、「相対水準」から自組織のポジションを理解
- 設問項目間の「相関関係」を把握し、結果の背景にあるストーリーを読み取り
- これまでの「経験・実感」に合わせて、最終的に自組織にとっての「強み」「改善課題」を選定
従業員向けの調査の内容は様々です。よって、上記のようなルールが常にフィットするわけではありません。今回は、一般的なエンゲージメント調査のように、従業員の声から組織の現状を把握するための調査を想定しながら論じてみました。
いずれにせよ、ポイントとなるのは、表面的な集計値の高低をみているだけでは実態を見誤るリスクがあり、当事者としてこれまでの経緯を振り返りながら結果を解釈すべきであるということです。そして、「思い当たる節がある結果」も「意外な結果」も、どのような文脈で捉えるかによって、アクションの取り方も変わってくることは改めて指摘するまでもありません。
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