Happy CX Day!
皆さんは「CX Day」をご存知でしょうか?毎年 10 月 1 週目の火曜日と定められているこの日は、よりよいカスタマー
エクスペリエンス (顧客体験)
の中心にいる組織、個人、そして顧客を世界レベルで称える日です。
世界中のお客さまに対し、CX
向上のお手伝いをしている我々クアルトリクスでも、もちろんこの日をお祝いします。
世界的パンデミックをはじめとする大きな社会の変動を経験し、CX
にこれまでにないほどの注目が集まる中、今年 2023 年には、日本のお客さま企業や、日夜 CX
向上のために奮闘しておられる CX
担当者の皆様、そしてその先にいるお客さまたちをどのように「称える」ことができるでしょうか?
今回の記事では、国内のお客さまの CX
向上プロジェクト支援に取り組んでいる中谷健一・久崎智子のエキスパート 2 名が、CX の向上に日々取り組んでいる
CX 担当者様に、「CX Day」をきっかけにぜひチャレンジしていただきたい、CX
への気づき・向上のためのテクニックを「初級」「中上級」に分け、 2 つご紹介いたします。
「誰のための CX なのか」に立ち返るために
中谷:今回は 「CX Day」
ということで、久崎さんから CX に取り組む企業の
担当者の方々に、簡単で効果的な取り組みをご紹介したいと聞いてます。
久崎:はい。CX
向上のための取り組み・顧客中心主義文化の醸成というと、全部署・全社を動員するような大規模なプロジェクトを想像しがちですよね。でも、「いつもお客さまのことを考える環境を整えましょう」という意味だと考えると、スモールステップ、小さなところからできることは色々あるはずです。
今日ご紹介する CX のテクニック 「カスタマー チェア」
は、「いつもお客さまの存在を念頭において考える」
ために、とても有効な方法です。しかも準備時間はほぼなし、お金もかからないんですよ!
中谷:カスタマー
チェアですね!話には聞いたことありますが、どう運用するのか知りたいです。なによりお金がかからないのは素晴らしい
(笑)。ぜひ教えてください。
初級:「カスタマー チェア」
久崎:「カスタマー チェア」
は、文字通り 「お客さまの椅子」 を表します。考え方はとても簡単で、「どんな規模であれ、社内で会議をする際には
『お客さまの椅子』 をひとつ用意して、お客さまが同席しているという想定で会議をする」
というものです。
実際の方法は色々ありますが、例えばオフィスで会議をする際には、「お客さま」
と書かれた紙を貼った、誰も座っていない椅子を用意することもできます。
それだけでもよいのですが、もし別部署に協力してもらえるようであれば、別の部署に所属している人に
「お客さま」
の役を演じてもらってもいいんです。別部署の人には、「お客さまの立場・気持ちになって話を聞いていてください」
とお願いし、最後に感想を聞きます。
中谷:用意するのは 「お客さま」
と書いた紙だけ?
久崎:はい、本当にそれだけです。単純に思えるかもしれませんが、これは実際にやっていただくと、本当に色々な気づきがあります。
それも、例えば CX
の担当部署、もしくはコールセンターやお客さま相談室など、実際にお客さまと接する立場の方だけではなく、一見
「関係がない」 部署でやっていただくことで、とても大きな気づきに繋がることがあります。
他の部署の方々に参加ご協力いただけるのならば、効果はさらに高まります。
例えば IT
部門とオペレーション部門の人たちが、支払いシステムの変更に関する会議をするとします。もちろんどちらの部門の担当者も、お客さまにトラブルなく便利に使ってほしい、とは考えると思うのですが、どうしても社内の人間、しかも関係者だけで会話すると「どうやったら効率化できる」という部分に話が終始しがちになってしまいますよね。
でも、「お客さま」 の立場になった全く違う部署の人がいれば、話し合いの後に
「私が支払いをする方法が完全に変わってしまうかもしれないのに、私が支払いプロセスに対して抱いている感情の話題は全然出ませんでしたね」
と言われるかもしれません。そこで 「あっ」 となりますよね。
中谷:なるほど。
みなさんついつい部署の理屈で動いてしまってませんか?
その仕事の先にはお客さまがいらっしゃいますよ、と改めて気づく機会を作る、ということですね。
久崎:その通りです。実際の人間がその場にいなくても、例えば
「お客さま」
と書かれた紙を席に置いておくだけでも、「この内容を、どうしたらお客さまに不快に思われないように伝えることができるだろう?」と考えて、発言者本人が自分自身で言い方を変えたりすることがあるんです。
単純に紙と椅子を置いておく、それだけの仕掛けで
「自分の仕事の先には、いつもお客さまがいる」 と気づくきっかけになります。
中谷:オンライン会議の場合はどう運用するのでしょう?
久崎:例えば Zoom
であれば、一つのアカウントのアイコンを 「お客さま」
に変えて、こんな感じの画面を出すだけでもいいんです。本当にこれだけで、「いつもお客さまのためを考えているか?」
と、自分たちに問い直すことができます。
もっと言えば会議だけではなく、一人で仕事をしているときであっても、「お客さま」
と書かれた付箋をPCの横に貼っておく、ということもできます。それだけで、「自分がしている仕事は、お客さまのためになっているか?」と自問自答するきっかけになります。
中谷:仕事や意思決定の場で、常にお客さまを意識するきっかけづくりになりますね。
CX の取り組みをはじめられた企業でよくある話ですが、 調査で NPS
などの数字が独り歩きして、いつの間にか数字を上げることが目的化してしまうことがあります。CX
の会議は数字の上がり下がりの話題ばかりで「いまお客さまはどう感じているのか?」「直近、お客さまが何を言っていたのか」という話が一切ない、ということは、残念ながら本当によく目にします。「カスタマー
チェア」 は、「自分たちは何のために CX
プログラムに取り組んでいるのか?」
という原点に立ち返らせてくれる効果がありますね。
久崎:そうなんです。もちろん、CX
に組織ぐるみで取り組むことや、数値化して改善をトラッキングすることはとても大事なのですが、本来は CX とは
「お客さまのエクスペリエンスを向上させること」 が最初で最後の目標であるはずですよね。「カスタマー チェア」
は、それを思い出すために、とても良いきっかけになると思います。
中上級「みんなでクローズド ループ」
中谷:久崎さんはもっとレベルの高い取り組みもされていたと聞きます。ご紹介いただけますか?
久崎:これは保険会社で実践されているのですが、「部長以上の役職者は毎月一定数、全員でクローズド
ループ コールをする」 というものです。
中谷:…ハードルがずいぶん上がりましたね(笑)。クローズド
ループ
コールって、苦情を寄せていただいたり、調査で極端に低い評価をされたお客さまにご連絡して、問題解決と根本原因探索を聞き出す活動ですよね?
久崎:はい、そうです。確かに始めるまでは大変ですし、かなり抵抗もありましたが、これをやると本当にたくさん発見があるんですよ!
IT から経理、営業までほぼ全部署から役職者が出て、苦情や悪い NPS
を寄せていただいたお客さまに、48
時間以内にコールをします。もちろん実際に困っておられるお客さまにお話をするので、通話の前にはしっかりトレーニングも受けますし、コールをする際にはコールセンターの担当者に横に座ってもらって、難しい質問が出たらすぐに代わってもらえるようにします。
中谷:久崎さんもコールされたんですか?ご感想はいかがでしたか?
久崎:しましたよ!お客さまから怒られるのではないかと、ものすごく緊張しました。でも実際にお話しすると、開口一番「あー、ごめんねー、色々書いちゃって」
と謝られることもよくありました。お客さまご本人も、少し時間が経つことで落ち着かれることもあるんでしょうね。
中谷:お客さまからすれば
「まさか連絡してくるとは思っていなかった」
というのもあるのでしょうが、自分がつけた低い評価に対してしっかり向き合ってくれるとわかれば、むしろロイヤルティを高める効果があると言われています。その瞬間を社内のリーダーが自ら作り出す体験をするというのは相当のインパクトでしょうね。役職者の方々の反応はどうでしたか?
久崎:コールセンターの方々への尊敬が強まったと言っている方は多かったです。「自分は一度や二度電話するだけでこんなに緊張するのに、コールセンターの人たちはこれを毎日、毎時間やっているんだ」
と実感した、ということだそうです。
そこから、「自分たちのやっている仕事は、この人たちが気持ちよく仕事できるかどうかに影響する。この人たちが嫌な思いをしないようにしっかりやらないと」
という気持ちになるんですよね。
中谷:受け入れ側になるコールセンターの方々の反応はいかがでしたか?
久崎:コールセンターの方々からも好評でした。普段は心理的にも、物理的にも遠い遠い場所にいる役職者が本社からやってきて、自分たちが「指導役」として助けてあげないといけない状況になるわけですよね。最近は
「ワンチーム」
という言葉もよく聞くようになりましたが、それを物理的にも実践することになるので、一体感が強まった、という意見はよく聞きました。
みんなでお客さまの方を向きましょう、と口で言うのは簡単ですが、実際に役職者が体と口を動かして取り組むことで、それが実感につながるんですよね。もちろん簡単にできることではないかもしれませんが、「我が社にどうやったら顧客中心主義を根付かせられるか?」
と悩んでおられる経営層の方にこそ、ぜひ試していただきたいテクニックです。
手続き的なところ・精神的な負担はもちろんあるので 「中上級」
としていますが、実際のところは IT
への新規投資などは不要なので、こちらも実質かかる予算はゼロです。ぜひ試していただきたいと思います。
中谷:実際に部長や社長がお客さまと電話をするというのは、相当な強いリーダーシップとサポート体制が必要です。そうそう簡単にはお試しできることではないと思いますが、大企業がCX
の取り組みとしてそのレベルのことを実際に実施している、というのは声を大にしてお伝えしたいことですね!
社内の価値観だけで考えるとどうしても 「うちの会社は・・・だからできない」
という考えになってしまう。お客さまの視点から 「なにができるか?」 を考えるのが
CX ですよね。
CX Day を 「いつもお客さまを意識する」 きっかけに
中谷:CX Day
は、「よりよいカスタマー エクスペリエンスの中心にいる組織、個人、そして顧客を世界レベルで称える」
日とされています。CX
の活動の先にいるお客さまの存在を、改めて意識するためのきっかけにしてもらえるといいですね。
久崎:そうですね。改めて「自分たちの
CX プログラムは、仕事は、本当にお客さまのためになっているか?」
と考え、必要に応じて軌道修正をするきっかけの日になればいいな、と思います。
日本を含む
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カ国・地域を調査
『カスタマー
エクスペリエンスの
ROI』
注:ネット・プロモーター、ネット・プロモーター・システム、ネット・プロモーター・スコア、NPS、そしてNPS関連で使用されている顔文字は、ベイン・アンド・カンパニー、フレッド・ライクヘルド、NICE
Systems, Inc.の登録商標又はサービスマークです。