昨今、人事課題の一つとして 「キャリア自律」 や 「リスキリング」 が注目を集めています。 しかし、日本国内で正社員として雇用されている 18 歳以上の就業者を対象として当社クアルトリクスが実施し、4,157 人から回答を得た「日本で働く人の意識調査」(2023 年 1 月下旬実施) では、そもそもキャリア目標がある人、キャリア上のロールモデルがいる人、現在の職場でキャリア目標が達成できると考える人は、それぞれ全体のわずか4分の1程度にとどまり、3〜4割は否定的な回答をしています。
また、「既存スキル・知識の深掘り」「新しいスキル・知識の習得」(学び直し)については、4割程度の回答者が行っていると回答したとはいえ、まだ十分なレベルとはいえません。特に後者については、一定期間の経験を有する従業員が新しい業務に対応するためであるにもかかわらず、勤続年数が増えるほど学習意欲は大きく低下しています。
加えて、キャリア上のロールモデルがいないと考える回答者が多く存在しています。ここには、具体的なキャリア展望を描きにくい要因の一つになっているものと推察されます。
この調査の内容に大きな反響をいただいたことから、クアルトリクスではこの「キャリア自律」について、アビームコンサルティングの戦略ユニット・人的資本経営コンサルティングチームでプリンシパルを務める久保田勇輝様をゲストにお迎えし、6月6日にウェビナーを実施しました。
こちらのウェビナーには、「オフィス回帰(RTO)」「静かな退職」をテーマとして実施したこれまでの従業員トレンド解説ウェビナー同様、多くの方にご参加いただきました。また、開催中には参加者の皆様から数多くのご質問をお寄せいただき、「キャリア自律」への関心の高さを改めて感じました。
本ブログでは、ウェビナー中に参加者の皆様からいただいた多くのご質問に対し、Q&A形式でお答えしていきたいと思います。なお、回答に際しては、久保田様にも多大なご協力をいただきました。ここに改めて感謝の意を表します。
【キャリア自律に対する支援】
Q:当社では、希望するキャリアを今すぐ経験したいという若手が多く在籍しています。若手のキャリア観の変化に対応することも重要と考える一方で、「まずは目の前の業務を頑張ったうえでその先のキャリアが拓ける」ことを、会社としてきちんと伝えることも重要と考えています。従業員への適切なキャリアへのフィードバック方法があればご教示いただきたいです。
A:一例ではありますが、
1) 当該キャリアを「1人前」に実施するために必要な経験・スキルを提示する
2) 1) を学ぶために必要な機会を開示する
3) 2) を手上げ式にし、希望するキャリアを今すぐ経験するのではなく、社内公募や兼業など、希望するキャリアを得るための道を提示する形にする
などが挙げられます。
その際に、会社は「従業員の望むべきキャリアを実現する」ためにあるのではなく「従業員の望むべきキャリアを実現する支援をする」のであることを説明する、といった対応が必要となります。また、そのメッセージをマネージャーとすり合わせることも重要と考えられます。
Q:社内公募についてお伺いします。キャリア自律を促す中で社内公募も活性化していくかとは思うのですが、人が抜ける部門や職場からすると、人を急に取られる…という認識がまだ抜けないように感じています。何かアドバイスはありますか?
A:
過去と比較すると、部門で「人を抱え込む」ということ自体に、現状どこの会社も無理がある状態にあります。無理な形で抱え込みを続けると、従業員はややもすると転職という選択肢を取ってしまうからです。そのため、以下を共通認識とするよう、社内コミュニケーションを取ることが重要です。
1) 職場側の考えとして、「人を急に取られる」ではなく、「魅力的な職場を作らないと人がいなくなる」と捉える
2) 転職という選択肢を取られるよりは、人が社内で流動するほうが、職場としても良いと捉える (人が入ってくる可能性や、出た人が戻ってくる可能性もあるため)
3) 社内で複数キャリアを経験することが離職率を下げ、従業員のスキル向上につながると捉える
Q:時代が変わってきていることや、自分自身がキャリアを自律的に描けていないことも手伝ってか、上司側がキャリア面談を苦手とするケースもあるようです。上司側へのアプローチについては、どのように進めることが望ましいのでしょうか?
A:事例として、
1) キャリア実現をするために、どのような経験を積むことが成果につながったかを体系的に可視化する →他社事例では、部長以上のキャリアをヒアリングして体系化
2) 1)をもし、会社からの指示だけでなく、自律的な判断で築くとしたらどんな選択肢があるか(経験の選択肢と、兼業や社内公募、自己申告など人事の施策)を可視化
3) 上記の結果を従業員へ開示
上記のようなプロセスを踏み、上司本人も (1)(2) を見て理解し、従業員とともに一緒に考えるアプローチがよいのではないかと思います。
Q: 今までの従業員は、基本的には偶発的なキャリアを歩んでいる従業員が多いです。なかなかモデルキャリアを提示しにくいときはどうしたらいいでしょうか?
A: 偶発的なキャリアを歩んできたとされる従業員の方々とのディスカッションを振り返って指摘できることは、本人が主観的に「偶発的」だと思っていても、実は客観的にみると過去の何らかのキャリアが現在のキャリアに繋がっているというケースがほとんどです。そして、過去のキャリアとの関連性をうまく活かしている従業員については、良いキャリア形成ができているといえます。
モデルキャリアが提示しにくい際には、まずはこれまでの経験・実績を改めて振り返った上で、小さな範囲でも応用できる分野がないかを検討することからスタートするのがお勧めです。
Q:昨今「ライフパーパス」という言葉がトレンドになりつつありますが、各従業員が個人のライフパーパスを抽出できたとして、それを会社側はどういった形で従業員のキャリア支援に結び付けていくことができるのでしょうか?
A:まず各従業員のライフパーパスを抽出できたとして、そのパーパスに対する個人の想いが特に強い場合には、それを企業としてのパーパスに無理やり繋ごうとする必要はないのではないでしょうか。会社としては、個人のライフパーパスを受け止めて対応できること、選択できるキャリアパスを提示することなどにとどめるのがよろしいかと思います。
いずれにせよ、会社として何ができるかわからない状況、あるいは実現できないことを提示するような状況にならないよう、注意する必要があります。
Q:自分自身が形成したいキャリアがあったとしても、スキル不足や会社での制約があると、なかなか社内でのキャリアの形成が困難な場合もあるかと思います。このような場合は、スキルは社内のみならず社外で学び、副業や転職で自らのキャリアを形成するしかないのでしょうか。
A:結論としては、社内以外も活用するということになります。
しかし、やはりこれも選択と集中で、すべてのニーズに対して対応するのではなく、あくまで会社の戦略上に沿った新たなるキャリアやスキル獲得のみに限定し、それをきちんと発信することだと思います。
単に「何でもできる(会社の戦略に沿わないでも)」ではなく、「会社の戦略に対する貢献につながるのであれば何でもできる」というメッセージと、例えば越境体験や MBA のような施策設計が必要と考えられます。
Q:事業環境が変わりゆく中、既存のキャリアパスは魅力的ではない可能性もあるかと思いますが、どのようにパスを提示することが適切でしょうか。
A:若干極端な意見としては、既存のキャリアパスを魅力的にできないことはあまりないと思いますが、完全に新規の事業に対応するためには、バリューチェーンから職務要件を定義して新たなキャリアパスを構築・提示する必要があります。
一方、今後縮小していくと考えられる既存キャリアパスに関して、重要性が低下するようなメッセージを積極的に提示する必要はありません。
Q:「会社のワク」に収まらないことを考えている従業員や、会社の戦略が必ずしも志向と一致しない従業員に対しては、どのように対応していくことが望ましいでしょうか。
A:会社の枠に収まらない状況も、ポジティブな場合とネガティブな場合があります。ネガティブなのは、会社の方向性と全く異なることを目的に掲げている場合です。ポジティブな場合は、最終的には会社の方向性と接点を持ちながらも、ユニークな独自な目標を掲げて「枠に収まらない」わけで、「異能」とか「多様」という表現で組織としても受け入れることが考えられます。
個人の方向性をできるだけ広く捉えた上で、それでも会社の既存の戦略との接点が見出せない場合、将来的な価値創造が期待できるのであれば新規の分野の立ち上げを検討するか、本人と協議しながら方向性の調整を検討することになるかと思います。
Q:人材育成としてのマネジメントと実務を進める上でのマネジメントが、往々にして乖離します。それをどうコントロールしたら良いでしょうか?
A:中長期的な視点が必要とされる人材育成マネジメントについては、油断すると後回しのまま何もアクションが取られないケースがあります。
そうならないように、3つの対応策があると思います。(1) 仕事を減らすというカルチャーを醸成する(目先の仕事に振り回される時間がボトルネックになることを避ける)、(2) プレイングマネージャーになってしまうことを避け、昇格基準において人材育成マネジメントの比重を明確に設定する、(3) 人材育成マネジメントのための時間を強制的に設定する、などが有効な対策になります。
Q:「周囲の連携の強さがキャリア自律に影響を及ぼす」とのことでしたが、この「連携」とは具体的には何を指すのでしょうか?業務上のつながりのみを指すのでしょうか、それとも業務外でのつながりも含めるでのしょうか?
A:本調査において、周囲の方々との接点が日常的にどれだけあるかを尋ねる設問8項目をベースとしてグループ分類しました。基本的には、何らかの業務上での繋がりを前提としていますが、それだけではなく職場で担当業務に関係なく連絡を取り合う人がいるかを問う設問も含めています。
【従業員エンゲージメントとキャリア自律】
Q:従業員エンゲージメントの水準にインパクトを与え得る項目に「成長機会」があるということですが、あくまで統計的な結果であり、価値観が多様化している中で個々を見ていくと違う傾向の方も当然いるかと思います。全社的には統計的な結果を見て施策を打ち、個々への対応は 1on1 等で対応していくようなアプローチを回していく、といった考え方が適切でしょうか。
A:ご指摘のとおりです。まずは、全体的(全社・組織)な傾向から課題を特定し、実際のアクションを考える上では個々人のニーズや現状を考慮するというステップが求められます。特に、「キャリア自律」の意識が低い従業員に対しては、丁寧な対応が必要になるかと思います。一連の流れにおいては、マネージャーの果たす役割が非常に重要といえます。
Q:一般的にキャリア開発とエンゲージメントの相関は強いのでしょうか?また、その結果を確認するにはどうしたらいいでしょうか?
A:はい、両者は非常に強い相関を示すことが一般的です。エンゲージメントを測定する設問項目に対する回答傾向と、他の設問に対する回答傾向から相関係数を算出して、両者の関係の強さをチェックすることで確認可能です。
キャリア開発に対するポジティブな想いと、熱意や貢献意欲を持って働くという姿勢(エンゲージメント)に相関がみられるのは、各自がその組織で働く根本的な意義を考えれば理屈の上でも自然のことといえます。
Q:エンゲージメント サーベイは必要だと思っているのですが、どういう手段で頻度はどのような形で実践されている会社が多いのでしょうか?極力負担が少ない方が良いと考えています。(例:モバイルアプリで月1)
A:一般的には、インターネット上に設定された調査サイトに従業員(調査対象者)を案内メールで誘導し、各設問に対してご回答いただくというのが、多くの企業の実施方法といえます。
頻度は、年1回を基本としていながら変化が激しい時代を反映し、短期間でも状況をウォッチすべきテーマに関しては、半期・四半期などで実施することを検討する企業が増加しています。
「モバイルで毎月」という例もありますが、活用も含めてどのような運営にするかを十分検討していないと、調査後の対応負荷で苦労されているケースが少なくないと思います。
8 月 2 日開催の 「X4」で
従業員エクスペリエンスの最先端に触れる
「オフィス回帰」「静かな退職」「キャリア自律」の各テーマでお届けしてきた 「EX トレンド解説ウェビナー」シリーズはいかがでしたでしょうか。お伝えした内容が、EX の向上に取り組まれている皆様のお役に立ちますことを願っております。
本シリーズでは日本の EX トレンドについて解説してきましたが、従業員エンゲージメントの向上や、日々の従業員エクスペリエンスの改善に取り組んでこられた方々のお話をお聴きすることで、一層理解を深めていただけるのではないかと思います。
8 月 2 日 (水) に東京国際フォーラムで実施されるクアルトリクスのイベント「X4 on Tour Tokyo」では、みずほフィナンシャルグループ・キッコーマン・名古屋鉄道・三菱重工業等の企業からスピーカーをお迎えし、実際の取組みから壁の乗り越え方、今後のビジョンまでをご紹介いただきます。また、また、クアルトリクスの経営陣から製品・ソリューションに関する最新情報を共有します。
EX トレンドにご興味をお持ちの皆様に、多くの気づきを得ていただける機会となるよう準備を進めております。ぜひご参加ください。
8 月 2 日 (水)・東京国際フォーラム
X4 on Tour Tokyo