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カスタマーエクスペリエンス

B2B 業界への CX プログラム浸透に重要な3つの柱「ガバナンス」「リスニング ポートフォリオ」「従業員の巻き込み」

時代と共に成長するカスタマー エクスペリエンス (CX)プログラムを構築することは、決して容易ではありません。企業間取引 (B2B) 企業は、複数の顧客の役割・多面的な関係モデル・限られたサンプル サイズなど、B2C にはない独自の複雑な環境と戦う必要が往々にしてあります。こうした固有の複雑性の要因としては、レガシー システム、時代に合わせて変更されていないプロセス、サイロ化した構造が考えられます。進化させないことによって、問題がさらに深刻化することも多くあります。

このような複雑なビジネス環境を考えると、B2B 企業の CX の成熟度が、B2C 企業と比較して歴史的に遅れをとってきたことは、驚くことではありません。しかし、B2B の 顧客は B2B 競合企業だけでなく、B2C 企業とも自分の体験を比較している今日、B2B 企業は CX 能力の向上に投資しなければ、事業に悪影響を発生させてしまう可能性があります。

B2B 企業の CX マネジメントへの取り組みは進んできているが、まだ改善の余地がある

では、B2B 企業における CX の成熟度は、現在どのような状況なのでしょうか。Qualtrics XMI (XM Institute) は毎年、世界中の B2Cと B2B の CX プロフェッショナルからフィードバックを得て、カスタマー エクスペリエンス管理の現状を調査しています。今回の調査対象は CX の取り組みに関わっている従業員の方に、自社の CX マネジメント プログラムに関する質問と、当社の CX コンピテンシーおよび成熟度アセスメントに答えていただきました。このブログでは、最新の調査における B2B の CX マネジメント リーダーの回答データを取り上げ、過去の調査との比較を実施しています。

B2B カスタマー エクスペリエンスの成熟度について、大まかに言えば、以下のようなポイントが挙げられます。

●B2B 企業の CX の取り組みは未熟である: 組織は CX スキルとコンピテンシーを高めるにつれ、5 つの成熟段階を経て進化していきます。「調査」「開始」「動員」「拡大」「定着」 です。B2B および B2B2C の CX 担当者による CX コンピテンシーと成熟度評価の回答分析によると、企業の 77% は成熟度の最初の 2 段階に該当し、その内 35% がまだ調査段階、42% が開始段階にあることがわかりました。

●...しかし、CX 活動は進んでいます!: 「CX マネジメントの現状、2020年」の調査結果と比較すると、B2B の CX の成熟度は顕著に向上していることがわかります。2020 年時点では、56% の企業がまだ「調査」段階、23%が「開始」段階でした。「定着」段階の成熟度に達している B2B 企業は存在しませんでした。

●B2B 企業の CX コンピテンシーは進んでいる: 組織は、6 つの XM コンピテンシーを構築することで、CX への取り組みを成熟させることができます。「計画」「実現」「発足」「可視化」「対策」「刷新」 の 6 つのコンピテンシーを構築することで、CX への取り組みの成熟度を進化させることができます。2020 年には、この 6 つのコンピテンシーの習得度合いを 「高い」 または 「非常に高い」 と分類した B2B 企業は 9% 未満でした。それが現在では、10% 以上の企業が、「破壊」 を除くすべてのコンピテンシーで 「高い」 または 「非常に高い」 と分類しています。

ここでは、B2B CX のリーダーシップ、活動、組織内のパフォーマンスに関する今年の調査から得られた分析結果を紹介します。

エクスペリエンス管理 (XM) は B2B 企業にとって必須事項である:4 つのエクスペリエンス領域のうち、B2B 企業が最も重視しているのはカスタマー エクスペリエンスであり、71% が CX プログラムを 「重要」 または 「不可欠」 な優先事項であると回答しています。しかし、他のエクスペリエンス領域にも関心がないわけではありません。実際、回答者の約半数 (ブランド エクスペリエンス/BX :57%、プロダクト エクスペリエンス/PX:56%、従業員エクスペリエンス/EX:50%) が、これらの分野を 「重要な」 または 「不可欠な」 優先事項として挙げています。

●B2B 企業では、CX を本格的に導入する準備を進行している:B2B 企業の回答者の 90% 以上が、大規模にカスタマー エクスペリエンスを取り組むための準備を初めています。また、こうした取り組みは、各部署単位で行われているわけではありません。B2B 企業の 60% は、カスタマー エクスペリエンス タスクフォースが中心となって CX 活動を推進しているか、事業全体・複数部署を巻き込んで実施するチームによって運営されています。

●B2B の CX チームは、より確立される必要がある:B2B 企業の回答者の 3 分の 2(66%)は、少なくとも 1 年前から中心となる CX チームを設置している一方で、 5 分の 1(19%) は、牽引役を担う CX チームを設置していません。CX チームを設置している B2B 企業のうち、最も一般的なグループ規模は 3~5 人(26%) で、ほとんどが小規模にとどまっています。しかし、B2B 企業の 31% は、CX チームに 10人以上の専任メンバーを配置しています。

●B2B 企業の 3 分の 2 が、CX のチャンピオンを設置している:B2B 企業の回答者の 67% は、全社の取り組みとしてのカスタマー エクスペリエンスを推進するチャンピオンとして シニア エグゼクティブ(経営層)をアサインしていると回答しています。また、ほぼ同数の回答者 (66%) が、CEO (または同等のリーダー) を CX の取り組みの強力な「積極的推進者」としています。これは、2 年前の 40% から大きく上昇しています。在籍期間については、30% の企業がカスタマー エクスペリエンス担当の上級管理職を 36 ヶ月以上、さらに 30% が 6 ヶ月から 36 ヶ月の間に担当者を置いていると回答しています。

●NPS を中心となる指標として登用しているネット プロモーター スコア (Net Promoter Score®) をカスタマー エクスペリエンスの中核指標として追跡している B2B  企業は 75% と、圧倒的な採用率の高差を誇ります。2 番目に多くモニタリングされている指標は満足度 (Satisfaction)、 企業の 41% が中核的な指標として挙げており、カスタマー エフォート スコア (CES) は 20% で 3 位となりました。一方、B2B 企業の 5% は、中核となる CX 指標をトラッキングしていないと回答しています。

●ほとんどの B2B 企業は、顧客関係の健全性を追跡している:B2B 企業の回答者の 80% 以上が、CX リスニング プログラムの一環として、顧客との関係全般の健全性をトラッキングしています。また、73% がインタラクション フィードバックを、56% がジャーニー フィードバックを収集しています。その他のリスニング(傾聴)ポイントは、常時接続のデジタル リスニング(44%)、フロントライン フィードバック(40%)、パッシブ リスニング (35%) という結果です。

●優先度の 「取り合い」が、B2B の CX プログラム成功を阻む:回答者の 65% が、CX の進捗を妨げる最も一般的な障害として「他の競合する優先事項」を挙げています。B2B 企業もこの課題を 2019 年の最重要課題として挙げていました。しかし今年は、2 番目に大きな障害として "システム間の統合不良 "を回答者の 54% が選びました。"社内組織間の対立 "は、2019 年の 2 位 (52%) から、2022 年には 3 位 (40%) に下がりました。

B2B の CX プログラムを成長させるための活動は、「ガバナンス」「リスニング ポイントの設計」「従業員の巻き込み」

では、B2B 企業はどのようにしてビジネス環境に特有の課題を克服し、B2C 企業のようなスピード感のカスタマー エクスペリエンスを提供できるのでしょうか。ここでは、当社が重点的に取り組むべき 3 つの活動カテゴリーと、それぞれの活動のヒントを紹介します。

●強固な CX ガバナンス モデルを確立する
●リスニング メソッドの充実したポートフォリオを構築する
●CX の取り組みに従業員を巻き込む

強固な CX ガバナンス モデルを確立する

成熟した CX プログラム、すなわち企業全体が顧客中心に行動する体質を構築するには、組織は複数年にわたり、多くの異なるプロジェクトやチームと関わり、顧客中心思考になるよう働きかけることが必要です。このような様々な CX の取り組みを効果的に進めるために、ゴール設計、意思決定、部署間の調整 (リエゾン)、対立があった場合の解決プロセスを盛り込んだ CX ガバナンス構造を確立する必要があります。多くの B2B 企業はすでに歩み始めているものの、優先順位の競合、不十分な統合、内部対立などの障害が蔓延していることから、やるべきことはまだまだ多いことが見て取れます。

ここでは、強固な CX ガバナンス モデルを確立するための 3 つの方法を紹介します。

●CX コアチームを構築する:CX ガバナンス モデルを構築するには、カスタマー エクスペリエンスのコア チームを組成することが効果的です。専任となり CX 戦略を立案し、実行するグループがいる企業は CX 成熟度モデルの初期段階をいち早く抜け、第二段階へ移っています。多くの場合 CX センター・オブ・エクセレンス (CoE) と呼ばれ、カスタマー エクスペリエンスの目標設定、モニタリング、CX に関する共通認識を周知、アイディアや成功事例の相互提供のハブとして機能する責任を担っています。この中核となる CX チームは、コーディネーション活動だけでなく、分析やインサイトの発見、顧客中心主義の文化醸成の取り組みも主導しています。

●協力者を募る:CX チームが単独で顧客中心文化を醸成することは不可能ですが、事業部門が分散・サイロ化しがちな B2B 環境では、特に困難が伴います。CX の実践と考え方を全社に浸透させるためには、協力者を募ることをお勧めします。このプロセスでは、CX プログラムに積極的に賛同してくれる数名の業務リーダーを特定し、このメンバーたちと提携して各事業部門の CX の取り組みを成功させ、その成功体験をもとに、さらに多くのステークホルダーと協力しながら勢いをつけていくことになります。

このプロセスは、これらの影響力のあるリーダーからなるワーキング グループを形成し、専門知識とリソースを提供してもらうことで、より迅速に進めることができます。協力者やワーキング グループのメンバー候補を特定するために、ステークホルダー マッピングを実施することが推奨されます。

●経営層のチャンピオンを確保する:カスタマー エクスペリエンスの取り組みは、経営幹部が関与することで、より早く、より大きな目的を持って成熟度の高い段階へと進むことができます。経営陣の支援は、CX の進捗を加速させるだけでなく、CX チームの活動に信頼性を与え、部門横断的な協力を確保します。

B2B の CX プログラムを阻害する内部対立がよく言われることを考えると、これは決して小さなことではありません。CX プログラムのチャンピオンを一人決め、会社の重要な部門の意思決定者からなる運営委員会を立ち上げることをお勧めします。これらのガバナンス要素は、CX 戦略を形成し、その戦略をさまざまな機能で実施するために不可欠です。

リスニング メソッドの充実したポートフォリオを構築する

CX の取り組みが成熟するにつれて、カスタマー リスニング プログラムは、多くの場合アンケート形式の単発のリスニング ポストから、エクスペリエンス モニタリング計画の精選されたポートフォリオに拡大する必要があります。このため、B2B プログラムでは、収集・共有するカスタマー インサイトの数と種類を注意深く増やす必要があります。

ここでは、リスニング メソッドの充実したポートフォリオを構築するためのヒントをご紹介します。

●非構造化フィードバックの収集:アンケート形式が利用されなくなる可能性は限りなく低い一方で、アンケートは、限られた範囲、全員に共通の質問、低い回答率、段階的展開など、制約があり、実用的なインサイトを継続的に得るには限界があります。B2B 企業は、プログラムを成熟させるために、ソーシャル メディアやレビュー サイトの投稿、コンタクト センターで発生する会話、フォーカス グループやカスタマー アドバイザリー ボード(CAB)などのソースからの定性調査など、幅広いソースから非構造化インサイトを収集し分析するための投資を行う必要があります。

B2B 企業における顧客フィードバックの収集の複雑さを考えると、特に貴重な(そして見落とされがちな)インサイト源のひとつに、現場で働く従業員が挙げられます。組織の長所と短所を明らかにし、潜在的な問題の早期警告信号を発見し、経験や業務データに関連するコンテキストを追加するために、従業員の声を募ることをお勧めします。

●ジャーニーマップを使用して、リスニング ポストを特定する:B2B のカスタマー ジャーニーは、複雑なデリバリー モデルと業務分担によるサイロ化された組織構造により、しばしばバラバラで統合されていない状態にあります。カスタマー ジャーニーマップは、このような環境における CX 活動として、多くの理由から有用ですが、特に体験や業務フローおよびデータの盲点を特定し、より効果的なリスニング戦略を構築するのに役立ちます。

ジャーニーマップは、顧客が特定の目標を達成するために辿るステップの概要を示すものであるため、このツールを使って、リスニングポストを新たに設置する、または既存のリスニング ポストを削減する場所を正確に特定するなど取捨選択することが効果的です。リスニング ポストは、ジャーニーの鍵となる  「真実の瞬間」、つまり顧客ロイヤルティに最も大きな影響を与えるインタラクションに設置する必要があります。

●包括的な CX 測定プログラムを構築する:CX 成熟度の初期段階にある組織は、CX の測定値と既存の KPI や事業目標とを別個にモニタリングする傾向があります。この乖離は、CX 目標と事業目標との間に断絶を生じさせ、各グループに所属する従業員が、自分の行動が CX の成果にどう影響するか、目標の達成に自分がどの貢献できているのかを理解することを困難にしています。

ビジネス全体にわたる一連のエクスペリエンス・オペレーション・財務指標を連動させた、包括的な CX 指標プログラムを構築することをお勧めします。まず、ロイヤルティ向上施策との関連性が明らかな CX の中核指標を選定し、KPI 向上に影響があるドライバー(要因)を特定するところから始めます。次に、ドライバー (要因)のパフォーマンスの測定方法を定義します。

例えば、導入プロセスにおける体験が要因である場合、測定する値には導入プロセスの満足度、導入期間、提供されたサポート支援数などが挙げられます。このように CX の目標とする KPI と CX を構成する要因それぞれをリンクさせることで全社的な改善が可能になり、カスタマー エクスペリエンス プログラムを測定可能にモデル化することができます。

CX の取り組みに従業員を巻き込む

企業は、無関心・意欲のない従業員が主体となっていては、優れたカスタマー エクスペリエンスを提供することはできません。XM Institute が 「好循環」 と呼ぶ、顧客体験と従業員体験の良好な関係は、顧客と長期的かつ密接な関係を維持しなければならない B2B 環境において、特に顕著です。CX の取り組みを進めようとする B2B 企業は、カスタマー エクスペリエンスの定義や進む方向性をて従業員に働きかけ、適切なスキルを身につけるトレーニングやサポート、モチベーションを提供し、望ましい CX の成果を達成できる環境・文化を醸成する必要があります。

CX の取り組みに貢献する従業員を増やすためのヒントは以下のとおりです。

●CX と EX の指標の関連性を分析する:B2B プログラムの大半は、カスタマー エクスペリエンス (CX) と従業員エクスペリエンス(EX) を組織の優先事項として考えています。しかし、この 2 つの分野を統合し、両者がお互いにどのように影響し、補強し合っているかを把握している組織は、非常に限られています。

EX と CX の関係を解明するには、顧客成果の向上と最も相関性の高い、特定の従業員エクスペリエンス項目を明らかにすることをお勧めします。その 1 つの方法は、EX 成果、EX ドライバー、CX 成果、CX ドライバーの関係を調査するクロス XM 分析を実施することです。

●アカウント インサイトのための役職別ダッシュボードを設計する:CX インサイトを共有する場合に注意したいのは、欲しい情報や必要な分析は役割によって違うというところです。それぞれの役割において CX 向上のために打ち出す施策のヒントや、実行力を促進するために、使う情報だけを選択してダッシュボードを作成しましょう。

例えば、アカウント マネージャーのダッシュボードでは、アカウントとの関係やタッチポイントを俯瞰し、「次のベストアクション」を推奨することができます。一方、ビジネス ユニット リーダーのダッシュボードでは、ビジネス ラインや顧客の種類に応じたパフォーマンスの追跡、機会や弱点の強調、他部署や他商品との比較などを表示することができます。このような役割に特化した情報により、主要な従業員グループやリーダーを CX 活動に参加させることが容易になります。

●フィードバックを提供した顧客へのコミュニケーション:顧客ロイヤルティを高め、顧客中心の考え方や習慣を組織全体の従業員に浸透させる最も効果的な方法のひとつは、クローズド ループ プロセスを構築することです。このプロセスは、顧客からのフィードバックを担当営業やサポート部員など担当している従業員が読み、フィードバックを連携してくれたお礼と共に、次に行うアクションを顧客に伝えることです。

これは、B2B 業界において特に効果的な活動です。B2C よりも顧客数が限られ、関係が構築されている B2B 業界では、顧客へ連絡することも容易であるはすですし、効果的なコミュニケーションにより大きなインパクトを生み出すことができます。この活動を成功させるには、効果的なフォローアップ会話を行うためのノウハウを従業員にトレーニングし、必要な時はエスカレーションするプロセスも同時に提供することです。

つまるところ

勇往邁進 (ゆうおうまいしん) :明治時代の英文学者・厨川白村 (くりやがわ・はくそん) の 『創作論』 に登場するこの言葉は、「恐れることなく、自分の目的・目標に向かって、ひたすら前進すること」を意味します。「お客様の声から必ず学べることがあるはずだ」という信念をもって CX に勇往邁進することで、組織全体の成熟度を上げていくことができます。

※このブログは、クアルトリクス XM Institute によるブログ "Accelerate B2B CX Programs with Robust Governance, Listening Portfolios, and Engaged Employees" (著者: ジェームス・バンポス、イザベル・ズダトニー、モイラ・ドーシー、タリア・クアードグラス) を基に、日本に向けた内容に更新されました。

 

 

事例に学ぶ、2023年消費者トレンド
ビジネスをもっと『ひと』らしくするには?

久崎 智子

クアルトリクス合同会社
CX ソリューション ストラテジー シニア ディレクター

お客様の声を起点とした業務改善・プロセス改善・システム開発プロジェクトのリード及びコーチングを金融サービス・製造業・ヘルスケア・エネルギー事業等多岐に渡り提供、20年以上の経験を有す。クアルトリクスでは経営戦略にエクスペリエンスマネジメント(XM)を導入するアドバイザリー支援を担当。
Certified XM Professional

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