はじめに
弊社が最近開催したウェビナー(英語)の中で、大きな反響を呼んだセッションがありました。ベストセラー ”Unlearn”(「アンラーン」:過去に学んだことを意図的に忘れること)の作者、バリー・オライリー氏(Barry O’Reilly)を招いて、この概念について議論したウェビナーです。様々なビジネスが大きな変化に直面している現在、従来からの既成概念に縛られない発想が強く求められています。本稿では、この「アンラーン」の考え方についてご紹介したいと思います。
「アンラーン」とは?
オライリー氏は、「アンラーン」について、「過去には有効であったが、現在の成功の足かせになっているような考え方や行動パターンを捨て、あらたな枠組みを構築し直すこと。つまり、古くなった知識から意図的に離れて、意思決定とアクションを活性化するための新たなインサイトを求めることである」と定義しています。日本では、この「アンラーン」を「学びほぐし」「学び捨て」などと翻訳していることが多いように思います。英単語の「Learn」に、反対を意味する「Un」を付けていますが、「学ぶことをやめる」という意味ではありません。
世界中の様々なビジネスにおいて、2020年は新型コロナウイルスの感染拡大を背景として、「アンラーン」せざるを得ない状況が続いているといえます。例えば、みなさまの会社においても、つい数ヶ月前までは一般的ではなかった在宅勤務を導入しつつ、思い切って業務プロセスを変更したのではないでしょうか。また、人々の消費行動が激変する中で、対面を前提としていたビジネスをオンライン化したり、製品開発においても新規の分野への進出を試してみたり、従来とは異なるアプローチを取る企業が散見されます。
「アンラーン」は、目の前の課題に対して、新たにデザインされた考え方で、従来の方法や習慣を置き換えることで、新しい環境に対して適切な対応を可能とするものです。オライリー氏は、「過去にうまくいった考え方や行動パターンについて、将来もずっとうまくいくという保証はどこにもありません。過去の成功に縛られず、新しいアプローチを調整しながら受け入れていくことが求められます」と語っています。
「アンラーン」によって期待される効果は?
不確実性や変革に対して、リーダーは抵抗を示すものですが、現時点でこうした動きに的確に対応できなければ、致命的な失敗につながる可能性があります。オライリー氏は「不確実な状況に直面すると、我々は直感的にまずは様子見しようとするものです。実際、多くの企業においては、何か判断できない兆候やリスクがあれば、取り組みを維持しながらストップさせるプロセスを組み込んでいます。我々は、とりあえず動かないことが最も安全なアプローチであると考える癖がついてしまっているのです」と説明します。
実は、安全策をとること自体が、急速な変化に直面している中では、リスクがあると考えるべきです。取り組みを凍結することは、不確実性の時代において必ずしも成功の道ではないのです。むしろ、環境変化に対して足踏みしていることが、遅れを取ることにつながる可能性があるからです。「アンラーン」の良いところは、誰でもやろうと思えばできるという点です。それを実行するために、何ら追加的な投資は不要です。最大の壁は、我々自身がそうするか否かでしかありません。
「アンラーン」を実践しているような取り組みの具体的な例として、シャープが液晶ディスプレイの生産工場のクリーンルームのスペースを活用して、マスクを生産したことは記憶に新しいでしょう。家電メーカーの立場でこれまでに成功経験のない分野にいきなり飛び込み、大きな実績を上げています。また、リクシルが5月に開始したショールームの「オンライン接客」は、対面を前提としてきた接客をオンライン上で実施するという、従来にはない発想が注目されると思います。同様の事例は、フィットネスクラブのクラスのオンライン化にもみられます。いずれも、市場のニーズを満たすため、従来当たり前だったビジネスやその提供方法から離れて、新しい取り組みを試しているという点で共通しています。
「多くの企業が、我々が現在経験している変化を、重要なビジネス機会と判断しています。アンラーンすることによって、新しい取り組みに対して迅速かつ効果的に対応する自由度と能力が生まれるのです。」
とオライリー氏は説明しています。
「アンラーン」を実行するには?
「アンラーン」に取り組む秘訣は、大きく考えつつ、まずできることから小さく開始することです。そうすることによって、ビジネスをリスクに晒すことなく、従来とは違ったやり方を試してみることができます。新しい方法を試してみようとする気持ちに加え、失敗しても大きなダメージがない状況が、慣れ親しんだ習慣を変える上で必要です。さらに、顧客や従業員、社会全体のニーズや期待を十分理解していることも、変革を起こす上では重要です。それらが変革を起こす根拠になるからです。オライリー氏は次のように語っています。「顧客や従業員の声から学ぶべきことは非常に多いですし、成功するためにはそれらに耳を傾けなければなりません。幸い今日のテクノロジーを活用すれば、そうした声を即座に収集し、アクションを取り、ポジティブな変化を与えることが十分可能です。フィードバックは本物でなければ意味がありません。社内の関係者だけで議論するのでは不十分で、実際の商品・サービスを手にした顧客の生の声、あるいは職場で日々働く従業員の声には、真のインサイトが含まれています。」
従業員エクスペリエンス(EX)の分野で考えてみても、つい最近まで勢いのあった花形組織が失速し、従業員同士のコミュニケーションが停滞したり、リーダーや組織に対する不信感が高まるような状況は決して珍しいことではありません。その結果、エンゲージメントや生産性が低下するような事態に陥る可能性も考えられます。リーダーとしては、これまでと同じ組織運営をしているはずなのになぜかうまく機能していないことに気づくはずです。その際、「アンラーン」するためには、まず実態として何が起こっているのかを十分理解しなくてはならず、従業員の声に耳を傾けて、そこからヒントを得る活動も検討すべきです。
「アンラーン」の価値は、コロナ禍が収束した後も、変革が求められる限り持続します。変化に対して、しなやかに、迅速に対応することで、発展を継続させることができるのです。
過去の成功を忘れて、学び直し、突破口を発見
お気づきの通り、「アンラーン」という考え方は、決して新しいものではありません。変革を起こすためのアクションを検討する際、追加的に取り組む様々な施策よりも、現在十分機能していない従来の施策や取り組みを思い切ってやめることが効果的であるという指摘は繰り返されています。そうした中で、今日「アンラーン」が注目される背景には、まさに過去の「成功の方程式」が通用しない時代になってきていること、そして、それがわかっていても人間の習性として「過去の成功を忘れ去ること」が決して容易ではないからだと考えられます。まず、従来のやり方が限界に来ていることを自分自身で率直に認め、新しい情報を積極的に受け入れ、学び直すことで新たな解がみえてくるというオライリー氏の主張には、納得させられる方も多いのではないでしょうか。
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