顧客ライフタイム バリュー とは - はじめに
顧客ライフタイム バリュー という言葉をご存知でしょうか。 LTV、CLTV、CLV などのような略称で呼ばれることもあり、顧客を対象としたビジネスについて考える際には頻繁に用いられる重要概念となっています。
今回のブログでは、顧客ライフタイム バリュー (今回は CLV という略称を使用します) を構成する要素と、関連する概念、CLV の活用方法 について記載したいと思います。
CLV の関連項目
一口に顧客ライフタイム バリューといっても、その中には様々な要素が含まれています。
まず注意を向けていただきたいのは、「顧客」は最初から存在しているわけではなく、何らかの契機があってから顧客となる、ということです。以下の図は、一人 (社) の顧客が最初に顧客になってから、時間軸上の過去から未来の状態、それに伴う損益を示しています。
ここで着目する必要があるのが、この図が示すのが、「売上」 ではなく、 「損益」 であるという点です。
稀に 「売上」 を顧客ライフタイム バリューの指標とするケースも見かけますが、原則としては 「損益」 を利用するのが一般的とされます。
基本的な考え方としては、最初に新規顧客を獲得するためのコスト (マーケティング・キャンペーン費用、提案費用等)を損失として計上します。その後、該当の顧客が何かを購入するタイミングで損益を計上します。本来であれば、ディスカウント ファクターと呼ばれる市場金利等による割引率を適用しますが、本稿では割愛します。
顧客ライフタイム バリュー (CLV)
つまり、顧客ライフタイム バリュー は、「過去・現在・未来にわたって発生した損益の合算値」 となり、上記の例では ① + ② + ③ + ④ + ⑤ = + 6,000円という計算となります。これが、基本的な顧客ライフタイム バリュー(CLV)の考え方です。
ちなみに、CLV では損益の合算となりますが、売上の合算値は 「セールス顧客ライフタイムバリュー」(S-CLV) と呼ばれており、よく CLV と混同される考えの一つです。
それ以外にも様々な数値が存在します。比較のため、主なものを以下に挙げてみたいと思います。
ヒストリカル バリュー (HV)
「現在より前に発生した損益の合算値」 となり、上記の例では① + ② + ③ = - 4,000円
という計算となります。
CLV という場合には、この概念を想起される方も多いのではないでしょうか。このデータ自体は、「結果」 を表すものであり、将来を「予測」するものではなく、あくまでも 「予測」 のためのヒントとして利用されることが多いと思います。
顧客獲得後ライフタイム バリュー(PAV)
「顧客獲得コストを除いた過去・現在・未来の損益の合算値」 であり、上記の例では② + ③ + ④ + ⑤ = + 16,000円という計算となります。
同じ属性を持つ顧客をグループ分けし、顧客獲得コストと PAV を分けて分析することで、顧客獲得コストを下げつつ、PAV を向上させる施策を模索するヒントとなります。
残存ライフタイム バリュー(RLV)
「未来の損益の合算値」 です。上記の例では④ + ⑤ = + 10,000円 という計算となります。今後の顧客との契約を継続するための戦略の情報として多用されます。
なぜ CLV が必要か
ここまでが CLV の説明となります。しかし、CLV を何に使うのか という疑問を持たれる方もおられるかと思います。
『マネジメント』 で有名な経営学者・ドラッカーは 「ビジネスの真の目的は、顧客を作り、維持すること。」 と言っています。これはつまり、顧客となった後の既存顧客は、会社の資産である という考え方といえます。
一般的な企業では、保有している資産、将来における減価償却などの数字も当然のように管理しているのではないでしょうか。ここから、顧客がもたらす収益を管理することの重要性がご理解いただけるかと思います。
企業価値の側面においては、CLV により企業の将来の収益を予測 し、将来発生するであろう収益に対して投資戦略を立てることにも繋がります。
実際、海外の企業においては、自社の既存顧客数や新規獲得顧客数、一顧客あたりの収益など、顧客ライフタイム バリューの基盤とも呼べる数字が、決算発表において報告されるようになりつつあります。
それでは、ここで一つ簡単な実例を見てみましょう。
Netflix の 2021 年の顧客獲得数は 2,900 万人で、マーケティング コストは 22 億ドルであったことは、一般に公開されています。
やや乱暴な計算ですが、この場合、顧客一人あたりの顧客獲得コスト (CAC) は約 77 ドルとなります (もちろん実際には、CAC にはマーケティング コスト以外にも存在します)。
ここから考えると、この年に契約を開始した顧客に対する利益が 77 ドルを超えた時点から、契約期間が長くなればなるほど、Netflix に収益をもたらしてくれることとなります。
もちろん各企業のビジネス形態にも大きく影響されますが、CLV を利用することで、将来の収益予想の可視化に繋がる可能性が垣間見れたかと思います。
それでは、安定した顧客維持を実現するためには、どうすればよいのでしょうか。顧客が継続しない要因は様々存在していますが、例として以下の項目が挙げられるかと思います。
昨今、ロイヤルティ リーダーと呼ばれる顧客ロイヤルティの高い企業が業績を伸ばしています。ベイン・アンド・カンパニーのロブ・マーキー氏の調査によると、以下の結果が得られています。
「ロイヤルティ リーダーは、同業他社の約2.5倍の速さで収益を伸ばしています。」
また、モルガン・スタンレーの投資ストラテジストも、NPS のような 「顧客ロイヤルティ」 は、顧客継続率を予測するための指標として有効であると述べています。
こういった背景もあり、顧客の維持、つまり CLVの向上を目指すため、多くの企業が顧客ロイヤルティに注目していることを感じています。
CLV の今後
現時点では、CLV の精緻化はなかなか容易に進まないという企業も多いかとは思います。しかし、このような指標が企業のレポートの中に組み込まれていく流れは、確実に進んでいます。その中で、NPS をはじめとした顧客ロイヤルティの計測は不可欠になり、更なる高度化が進むにつれ、CLV の精緻化もまた進んでいくのではないかと考えられます。
実際に起きていることとしては、グローバルに事業を展開する保険会社のアリアンツは、従来からこの NPS を組み込んだ経営を進めています。また、公共事業組織である E.ON も顧客数をレポートするとともに、NPS を計測しています。
おわりに
CLV の考え方や、その必要性の説明はいかがでしたでしょうか。簡単にまとめますと、CLV を利用することで、企業は以下のようなプロセスを辿ることになります。
余談ですが、モルガン・スタンレーの投資ストラテジストによると、企業の成長局面においては、CAC への投資を渋ることは、最終的な企業の成長に大きく影響するようです。
私が以前働いていた B2B 企業は国内では後発の企業でしたが、自分たちのビジネスと顧客ロイヤルティには絶対の自信を持っていました。既存の顧客からの収益をベースとして、価格を下げてでも案件獲得を行うという 「骨皮プラン」 と呼ばれる施策を打ち出し、CAC を非常に高水準にして大幅な巻き返しを図り、国内顧客ベースを構築しました。
結果として、国内で確固たるブランドを確立し、従業員数も 5 年間で約 3 倍まで増加し、現在も好調なビジネスを行っています。
本投稿が、顧客ロイヤルティ計測を実施するための一助となれば幸いです。
クアルトリクスの
顧客エクスペリエンス (CX) ソリューション