ウェビナー 『オフィス回帰 (Return to Office) がもたらす影響とは?』 について
クアルトリクスでは、毎年恒例としてグローバル規模で「従業員エクスペリエンス トレンド調査」を実施しています。この内容を補完し、日本独自の傾向を観察することを目的として、2023 年 1 月下旬に「日本で働く人の意識調査」を日本独自に実施しました。
この「日本で働く人の意識調査」では、「オフィス回帰」「静かな退職 (quiet quitting) 」など、国内外で注目されている従業員エクスペリエンスに関する動きが、日本でどのように起きているのかを分析しました。本調査では、正社員として雇用されている18歳以上の就業者を対象とし、4,157人からの回答を得ました。
調査結果は こちらの eBook にまとめてありますが、「ぜひ、各キーワードについてさらに詳しく解説してほしい」とのお声を多くいただいたことから、全3回の予定で注目のキーワードをご紹介する EX ウェビナー シリーズを企画し、去る 3 月 23 日に「オフィス回帰」をテーマとした第一回目を開催しました。
こちらのウェビナーのオンデマンド版は こちらから 無料でご視聴いただけますので、ぜひご参考としていただければ幸いです。
「オフィス回帰」(Return to Office)よくある質問
「オフィス回帰」(Return to Office)を実際に検討中・進行中の企業も多いためか、参加者様から多くのご質問をいただきました。時間の制限もあり、ウェビナー中にすべてお答えすることができなかったため、また興味深い視点を提供してくれる内容も多かったため、本記事にいただいたご質問と回答を掲載いたします。オフィス回帰に実際に取り組まれている皆様のご参考となれば幸いです。
Q 在宅勤務が可能かどうかは業種・業務内容に左右されるところが大きいと思われますが、一方で、現場業務の担当者も在宅勤務ができる方策を考える必要はあるのでしょうか?
A リモートワーク導入当初に、一つの企業内でもリモートワークが認められている従業員と、そうではない従業員が存在することによる不平等感は問題視されました。担当業務による制約が大きいところではありますが、ローテーションを組むなどして可能な範囲で在宅勤務の機会の均等性を少しでも近づけることは意味があると思います。
ただし、あくまでもゴールとすべきは働きやすく、やりがいを感じられる場所で仕事をすることですので、在宅勤務によってそれが実現できると判断できることが大前提となります。そうでなければ、単に仕事の質が低下したり、業務分担に偏りが生じたりすることになりかねません。
Q リモートワークが可能であるかどうかは、採用にも影響してくると考えられます。採用の観点からリモートワークを導入することには意味がありますか?
A 一般的に採用にもプラスの効果があると言えます。ウェビナーの中でリモートワーク推進企業の事例としてご紹介したNTTや三菱ケミカルにおいても、人材の確保が柔軟性を提供する狙いの一つとして触れられています。
特に、若年層における新しい価値観として、選択肢が豊富で、柔軟な働き方を好む傾向があることから、完全出社のような制度しかなければ、それを理由にして就職を思いとどまる人が出てくる可能性もあります。
Q 経営トップが「従業員がどのように働けば生産性向上やウェルビーイングに繋がるか?」を真剣に考えていない会社はまだまだ多いのではないかと思います。コンサルティングを行ってこられた立場から、どのようにお考えでしょうか?
A 既に真剣に考えざるを得ない時代が到来している中、もし経営陣が生産性やウェルビーイングに配慮しないのであれば、非効率な業務遂行の中でコストが圧縮できなかったり、人材が疲弊して定着しないことなどを通して、企業としての競争力の低下が徐々に進むと懸念されます。投資家、顧客、労働者などから選ばれなくなる前に、経営陣はこうしたテーマに真剣に向き合わざるを得ない状況になっているといえます。
Q リモートワークをしている従業員・出社して仕事をしている従業員の間に生まれてしまう情報格差には、どのようなものがありますか?
A 出社している従業員の方が、インフォーマルな情報を耳にしやすい環境にあることは間違いありません。例えば、単なる噂話や、まだ最終的な決定に至っていないような事項について、何気ない会話から、出社している従業員がリモートワークしている従業員よりも先行して知ってしまうような情報格差が生まれる傾向が強まります。
よって、組織全体としては、オープンなコミュニケーションができる風通しの良い組織風土を醸成し、企業の戦略や方針変更など重要なテーマは公式な情報をタイムリーに組織内に共有するように徹底することが、情報格差の解消につながると考えられます。
Q 役職以外にも、世代による出社に対する意識の違いはありますか?
A 本調査においては、年代間の回答傾向はそれほど大きな差はありませんでした。ウェビナーの中でご紹介した役職別などで生じていた明確なギャップに対して、年代間の肯定的回答率の差はせいぜい10ポイント前後でした。
ただし、シニア層(50代・60代)が全般に出社の必要性をより強く感じている点、特に生産性や業績の観点でその傾向が現れていたことは、年代別の特徴として指摘できます。
Q 出社派とリモートワーク派 / 上層部と一般従業員のギャップが大きいという結果は、自分自身が勤務している職場の状況を反映していると感じました。我が社では、特に「話を聞いている」と主張する上層部ほど、一般社員からは「聞いていない」と思われています。こうした「ズレた」上層部に対しては、どのように働きかけていくのが効果的でしょうか?
A まずは、そうした意見や捉え方にギャップが存在していることを見える化することが有効と考えます。具体的には、従業員意識調査のようなデータに基づき、それを職位別に集計してどの程度の差になっているかを数字で示すということです。通常、経営戦略・理念、リーダーシップに対する信頼感、心理的安全性など、組織上の立場によって見えている世界が異なるテーマに関しては、非常に大きな認識のギャップとなって現れることが多いです。
そうした結果に対して、上層部は「一般従業員が間違っている」という見方をするのではなく、視点を変えて「一般従業員にはこう見えているのが実態」とそのまま受け取っていただき、意図的にそのギャップを埋める言動をしていくことが求められます。
Q 地方や環境の良い場所でリモートで働く(ワーケーション等)によって、イノベーションの推進や生産性の向上が実現できるというデータはありますか?
A 残念ながらございません。ワーケーションだけでなく、全社レベルでも、リモートワークがイノベーションや生産性に対してポジティブな効果をもたらすのか否かは、どの会社でも今後数年かけて検証していくことになると思われます。
Q 出社を強制せず、ポジティブに推奨するためには、経営層は何をすれば良いのでしょうか?
A 企業の業種、従業員の職種などによっても、本来は異なるメッセージが必要になると思います。しかしながら、調査結果にもございました通り、一般に指摘される下記のようなポイントは、全従業員に刺さるものではないとしても、ある程度有効であると考えます。
留意すべきポイントは、出社することで最終的に仕事のやりがいや働きやすさが実現できると判断できないのであれば、出社を推奨する意味はないということです。
・良好な人間関係の構築、協力の活性化
・(現物を重視するような業種・組織において)生産性や仕事の質、業績の向上
・議論のしやすさ、(インフォーマルな)コミュニケーションの取りやすさ
・新しい発想、イノベーションへのきっかけ
・組織の連帯感を大事にするようなカルチャーの醸成
Q リモートワークをしている従業員のほうが、全社レベルでの戦略/理念をポジティブに捉えていることが意外でした。リモートワークの従業員に対して孤立感を抱かせずに、愛社精神を育むことは可能ということなのでしょうか?また、出社させれば愛社精神が育まれるという考えは短絡的なのでしょうか?
A. リモートワークを認める方針が、従業員側に働く場所・時間に関する選択肢を与えていることを通して、戦略や理念全体に対する捉え方にプラスに働いている面があるのだろうと捉えています。孤立感については、完全出社派と完全リモート派が大体似た回答傾向を示している中、ハイブリッド型の従業員の方が完全出社よりも連携できているという傾向は注目に値すると思います。
実際、出社することによって上司・同僚や職場に関して不愉快な点がより具体的に認識されるような可能性も否定できず、一概に出社すれば愛社精神が向上し、孤独感の解消が実現するとは言い切れないわけです。2021年7月のハーバードビジネスレビューの記事においても、リモートワークが活発化する以前から従業員の孤独の問題が発生していたと指摘しています。単に出社するだけではなく、周囲の人々と議論したり協力したりしながら成功体験を積み重ね、働きがいを感じるような職場にすることが、愛社精神にも繋がっていくと捉えると良いのではないでしょうか。
Q 出社よりリモートワークの方が「タイパ」が良い一方で、「運動不足になりがち」という悩みが出てくるのではないかと思いますが、いかがでしょうか。
A 既に3年間続いたコロナ禍を通じてリモートワークを続けた方々の間で、出勤しないことによる運動不足を気にされている方は少なくないと思います。体重増加、姿勢の悪化、筋力の低下などが問題視されています。企業によっては、オンラインによる簡単な体操時間の設定、産業医によるリモートワークにおける健康維持に関する情報発信、健康づくりのための活動に対する補助金(例えばフィットネスクラブ費用、スポーツ用品購入代など)を提供しているような事例があります。
Q フルリモート・フルフレックスの会社で組織改善に取り組んでおります。組織が縦割りでサイロ化が進んでおり、全体最適化することが難しい状況で、周りが見えにくいために起きる様々なひずみが起きています。連携できていると思っているが実はできていない(見えてないものが見えていない)ということが起きていると思うのですが、組織の分裂やサイロ化への対策としてどのような施策が効果的と考えられますでしょうか。
A 各社で昔から様々な試みがあると思いますが、まずは「人となりを知る」ことから始めるならば、チームビルディングのための各種イベントやパーティ、オフサイトミーティング、組織横断型のトレーニングなどが一般的です。仕事上で接点がなかった人との交流の場を提供するという意味で、それなりの効果はあるものと思われます。その他、組織の垂直方向、水平方向、斜め方向の人同士で、ランチを一緒にする制度を導入しているような企業もあります。
もう少し仕事面に近い話としては、タウンホールのような場で組織のトップから従業員に向けて戦略や方針を直接語りかけたり、担当業務分担のローテーション、短期の組織間異動による人員の交流などが考えられます。
以上が、参加者の皆様からお寄せいただきました質問と回答となります。皆様のご参考となれば幸いです。
次回ウェビナーでは「静かな退職 (quiet quitting)」を解説
次回のウェビナーは「静かな退職 (quiet quitting)」をテーマに開催する予定です。仕事に対する熱意を失い、与えられた以上の仕事をしないが会社を辞めるつもりはない状態である「静かな退職」は、昨年半ば以降、海外を中心に話題となっています。
「日本で働く人の意識調査」では、この「静かな退職」をする人々を、「自発的貢献意欲が低いものの、継続勤務意向は高い状態」として定義・抽出したところ、回答者全体の約15%が該当することがわかりました。また、海外では主に若年層に多くみられる傾向とされていますが、今回の調査では40代・50代の中堅・シニアクラス、一般社員、周囲との連携が弱い人々、パフォーマンスが平均に満たない方々の比率が高めの傾向を示しています。
ウェビナーでは、自発的貢献意欲と継続勤務意向がともに高水準である「コア人材」と「静かな退職」をする層との比較、どのような働きかけをすることが有効であるかなど、エンゲージメント向上を推進していく上でも気になる懸念材料「静かな退職」について解説し、対策についてご一緒に考えていきます。ぜひご参加ください。
EX トレンド解説ウェビナー
「静かな退職」 (quiet quitting)