従業員向け調査の設問設計で知っておきたいこと : はじめに
従業員向けの調査に限らず、アンケート調査の準備段階で一番時間をかけて悩むのは設問設計のはずです。誰に何を尋ねれば良いのか、どんな聴き方をすれば本音を引き出せるのか。主催者側の調査目的に沿った設問を設計するのはもちろんのことですが、回答者(従業員)の関心、答えやすさ、手間などにも十分配慮する必要があります。今回は従業員向けの調査の設問設計に関して、考慮すべき主要なポイントを論じてみたいと思います。
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第 1 回: 従業員向け調査を実施するにあたって
第 2 回: 調査の実施時期を決めるための検討項目
「仮説検証型」か、「問題発見型」か?
設問設計について、企業の皆様と議論していると、「この調査ではどんな仮説が検証されるのか?」とか、「仮説がないまま闇雲に調査しても意味ある結果は得られないのではないか?」という疑問を投げかけられることがよくあります。改めて触れるまでもないことですが、仮説とは「ある注目される事象に関する仮の答え」、検証とは「仮説が正しいか否かを判断するために確認する実験や分析」のことです。
仮説検証という考え方が重要である一方、「では、現在貴社ではどのような課題に対して、どのような仮説をお持ちですか?」と問いかけてみると、実は具体的な課題や仮説を把握していないことがよくあります。さらに、課題がたくさんありすぎるケースや、その課題に対する仮説が不明なケースもあります。こうした場合、「仮説検証型」の調査にこだわり続けると、前進することができなくなってしまいます。そもそも、仮説検証に至るまでの実態把握が十分ではないためです。
従業員向けの調査を「組織の定期健康診断」と同様に捉えると分かりやすいと思います。検証すべき仮説が不透明な状況であれば、人間ドックと同じで、自覚症状がない部分も含めて、頭のてっぺんから足の先まで定期的に問題がないかをチェックするような調査が有効です。「仮説検証型」に対して、網羅的に様々なテーマを含めて設問を設計し、結果から課題を理解する「問題発見型」の調査です。
全体像を把握して、フォローアップ調査に展開
「問題発見型」調査は、従業員向け調査の中では、年次で行われる全従業員を対象とする伝統的な「従業員エンゲージメント調査」や「従業員満足度調査」のイメージです。会社・組織、仕事、個人、職場などの視点で、うまく行っていること、行っていないことを幅広くチェックするわけです。当初は注目していなかった課題が、調査結果から初めて浮かび上がることもあります。
人間の健康診断同様、「問題発見型」の調査結果から、組織のどこか特定の領域やテーマに問題が発見されたのであれば、さらに追加的な精密検査の要否を検討します。課題を深掘りするため、「この点に問題があるのであれば、原因としてはこんなことが考えられるのではないか?」というような調査テーマをフォーカスした「仮説検証型」調査に発展することになります。もちろん、「問題発見型」調査を先行させずに、社内の特定の出来事や従業員の特定の体験に関して「仮説検証型」調査を実施することも有効ですし、両者を組み合わせて一つの調査として実施することも一般的なことです。
なお、調査テーマの検討に向け、弊社では様々な従業員エクスペリエンス(EX)を抜け漏れなく捉えるための枠組みとして、下図のような4分野に整理した個別テーマを紹介しています。
個別設問項目の設計ポイントは?
上記のような調査目的やテーマに関わる方針が明確になれば、次に個別の設問項目を決めていくことになります。全体の設問数が非常に少ない調査でなければ、最初のステップは、設問を分類する「カテゴリー」(例えば「リーダーシップ」「協力体制」「成長の機会」などのテーマ)を設定することです。原則として、結果指標としてのカテゴリー(例えば「従業員エンゲージメント」)とそれに対する推進要因(ドライバー)を意識して設計し、結果指標の現状および相関が強いドライバーを把握できるように設計することが、改善アクションに繋げる上で効果的です。
次に、各カテゴリーの現状を客観的に測定するのに相応しいと考えられる個別の設問項目を検討します。アンケート調査に共通で適用されるような基本ルールを別にすると、従業員意識調査における主な留意点としては以下のようなポイントを指摘することができます。
- 設問文中で、「当社は」「所属組織は」「直属上司は」「私は」など、主語を明確化
- 設問文に使用する単語は、できるだけ社内で一般的に知られるワーディングを使用
- 回答者によって設問の捉え方にばらつきが生じないよう、必要に応じて用語定義を提示
- 設問文に対して「そう思う」と同意する回答が、一貫してポジティブであることを意味するように尋ね方を統一(同意する回答がネガティブな状態を意味する設問形式は避けた方が無難)
- コンプライアンス関連設問などのように、従業員ができていて当然とされるテーマについては、回答者本人だけでなく、組織としての実態は把握するように主語を調整
- 組織の実態としてアクションを取ることが不可能、あるいは取る計画がない課題に関連する項目は慎重に扱い、従業員の失望を招かないように期待値をコントロールする必要
- 選択肢式設問で本音を聞けないテーマについては、自由記述設問を設定
設問の確定に向けて
調査票のドラフト案が完成した時点で、全体の設問数の妥当性(15分程度以内で回答できる(選択式)設問数としては最大60項目前後が目安)、各カテゴリーのバランスを確認します。問題がなければ、調査主催の部署内などで、プロジェクトに関与していない従業員にも依頼して、実際に回答してみると、修正を要する点が明らかになることも少なくありません。
もちろん、そうしたフィードバック全てに対応しようとすれば、設問設計が収束しなくなるリスクもありますので、プロジェクトチームで調査目的を軸として、ブレない設計方針を維持することも重要になります。様々なステークホルダーからのリクエストを盛り込もうとすれば、設問数が増え続け、調査目的・テーマも不明瞭なものになってしまいます。
設問設計には、本稿で触れた以外にも多くの論点があります。回答選択肢の設定、調査票上での設問の並べ方、自由記述設問の考え方、組織内の人間関係に関わるようなセンシティブな問題の取り扱いなどのほか、回答者の属性を調査の中で尋ねるのであれば、対象とする属性の種類(例えば、所属組織・性別・年齢・職位・勤続年数など)も適切に設定しなくてはなりません。
最終的には、調査目的に沿って把握すべきテーマが抜け漏れなくカバーされていること、従業員が負担を感じることなく容易に、そして率直に回答できること、調査結果がアクションにつながる内容であることが、設問設計の最重要ポイントであるといえます。
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