はじめに - ダイバーシティ &
インクルージョン (DE&I)
日本では、女性活躍推進や障碍者雇用の文脈で語られることの多かったダイバーシティ&インクルージョン (D&I) ですが、近年では多様性の定義も広がり、性的指向や働き方なども包含されるようになってきました。また、D&I に Equity (公平性) という概念を加えた DEI という用語も欧米では定着してきており、社会構造的な不平等の是正も視野に入れた取り組みが始まっています。
残念ながら、日本国内における D&I は、法令遵守や企業広報の域に留まっている感は否めず、企業価値向上のために積極的に D&I を推進している企業はごく限られているというのが実情です。
そのような状況を反映してか、毎年世界経済フォーラム (World Economic Forum) が 「経済」「政治」「教育」「健康」 の 4 つの分野のデータから男女格差を測る 「The Global Gender Gap Report 」 の最新調査報告書を見ても、日本の総合順位は 156 か国中 120 位と、先進国の中で最低水準であるだけでなく、韓国や中国、東南アジア諸国にも追い抜かれる結果となっています。
LGBT においても同様の傾向が見られ、経済協力開発機構 (OECD) がまとめた加盟各国の LGBT に関する法制度の整備状況に関する報告書では、日本は OECD 35 カ国中トルコに次ぐ下から 2 番目の 34 位となっています。
民族・人種の多様性が比較的高く、ジョブ型採用が基本となっているため、優秀な人材の確保・維持のために D&I を推進しようというメカニズムが働きやすい欧米と違い、同一人材をメンバーシップ型採用して育成していく日本では、D&I に対する意識が高まりにくいという文化的背景があるのも事実です。
しかしながら、少子高齢化が進む日本において労働力を確保し、経営リスク低減や企業価値向上の観点から ESG 投資への関心を高める機関投資家の要求に応えていくためには、日本企業においても DEI 推進は避けられない経営課題となっています。
偏重する D&I の取り組み
これまでの日本企業の取り組みを振り返ると、女性や障がい者の登用といった多様性の確保、即ちダイバーシティに偏重していました。ダイバーシティは数値化が容易で、自社の現在地を把握したり、社内外に実績をアピールするのに手っ取り早いからという理由もあるでしょう。
一方、インクルージョンは、包括性などと略されますが、従業員が歓迎されたり尊重されているかという指標になります。多様性がある組織が必ずしもインクルージョンが高いわけではなく、女性や LGBT、障がい者など多様な人材を積極的に登用しても、インクルーシブな社風や人事制度がなければ、対象者の能力発揮阻害や離職を引き起こしてしまう原因にもなってしまいます。
インクルージョンの課題は、ダイバーシティと違って定量化が難しいという点です。企業の取組事例を見ても、特定の属性の社員比率を公表していることはあっても、それらの社員がどのように感じているかといった指標はほとんど見かけません。これでは単なる人材の多様化であり、真の意味での D&I とはいえません。
インクルージョンの定量化
クアルトリクスでは、インクルージョンを「公平性」「帰属意識」「自分らしさ」 の 3 つに分解しています。「公平性」 では、属性や出自に関わらずキャリアで成功するための機会創出がされているかを、「帰属意識」 では、文字通り組織へ属しているという感覚を、「自分らしさ」 では、ありのままの姿で仕事ができる環境にあるかを従業員に聞くことによって、インクルージョンを数値化しています。
クアルトリクスではエンゲージメント調査も提供していますが、「エンゲージメント」 という抽象的な概念も、達成感や (会社の) 推奨意向といった要素に分解することで、定量化を可能にしています。
数値化されたインクルージョンスコアと従業員属性を掛け合わせることで、「女性社員がキャリアに限界を感じている」 といった乱暴な推測ではなく、どの社員が公平性、帰属意識、自分らしさの各領域においてどのように感じているのかを確認し、自社のインクルージョンの現状分析に繋がります。
ダッシュボード サンプル:組織全体のインクルージョンスコアや属性別の分散などを確認し、
自社におけるインクルージョンの現状分析ができる
インクルージョン ドライバーの抽出
インクルージョンを定量化すること以上に重要なのが、インクルージョンの因子 (ドライバー) を理解することです。インクルージョンが低いからといって、闇雲に施策を打っても、効果が出ないばかりでなく、従業員と経営層の間に更なる溝を作り出すことにもなりかねません。
例えば、女性のインクルージョンが低いという結果が出たとします。それを見て、短絡的に 「女性社員のための研修」 だけを拡充させたとしても、女性社員の中でも 「ゆるキャリ」 を望む層のニーズには合致しませんし、男性社員からは不平等だという反感を買ってしまうかもしれません。
クアルトリクスでは、インクルージョンのドライバーを、経営層の率先垂範や制度・プロセスといった 「トップダウン型」 と、チーム レベルにおける賛同や心理的安全性といった 「ボトムアップ型」 の 2 つに分類しています。更に、それぞれのカテゴリー内でより細かなドライバー設問が用意されているので、インクルージョンの低いグループが見つかった場合に、どこに改善余地があるのかを把握し、必要なアクションを検討する足掛かりとすることができます。
ここで重要なのは、単純に回答結果の低かったドライバー設問を課題として抽出するのではなく、インクルージョンスコアとの相関分析をした上で、インクルージョン改善が期待できると考えられる (相関係数が高い) 項目を抜き出している点です。限られたリソースの中で、スコアが低い項目全てに対して施策を打つことは、現実的でも効率的でもありません。
ダッシュボード サンプル:インクルージョンスコアとの相関が高く、かつ点数の低いドライバー項目が
自動的に抽出されるため、調査後速やかに施策検討に移ることができる
クアルトリクスのプラットフォームは、フィルタリングが容易にできるのも特徴です。性別や年代、部署など様々な属性情報を組み合わせてクロス分析を行い、どのグループがインクルージョンに対して最もギャップを感じているのかを見極めることで、より費用対効果の高い施策に結びつけていくことが可能になります。
今後に向けて
男女雇用機会均等法が施行されてから、来年で半世紀が経とうとしていますが、冒頭で触れたように、日本企業の D&I の取り組みは必ずしも結果を生み出しておらず、「D&I 疲れ」 を起こしている担当者や、「社交辞令」 と割り切っている経営者もいるのではないでしょうか。
しかし、労働市場や投資家意識の変化により、DEI の重要性は増すばかりです。今後の取り組みを徒労に終わらせないためにも、データ ドリブンな D&I 推進を検討されてはいかがでしょうか。
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