エクスペリエンスマネジメント(XM)
世界 18 カ国・
地域でみる
国⺠性による
NPS 評価の違いと
3 つの提言
はじめに - 「なぜ日本だけ
NPS スコアが低いのか?」 という問い
カスタマー エクスペリエンス (CX) プログラムの運用に、NPS®︎ (ネット プロモーター スコア®︎、以下 NPS) を採用している企業が国内でも増えています。クアルトリクスの XM プラットフォームにも、NPS の運用を支援する機能が数多く実装されているため、CX プロジェクトに取り組まれる国内企業のご相談に乗ることも少なくありません。
NPS のスコアは一定のルールに従って算出されるため、同業種・異業種、事業展開地域や国家を問わずに企業間比較がしやすいことが特徴です。この比較のしやすさが、NPS がここまで広がっている理由でもあるかと思われます。
そこでよくお寄せいただくお悩みの声が、「なぜ日本だけスコアが低いのか?」 というものです。特にグローバル企業の担当者様から、「他国・地域と比較すると低さが際立つ。どうしたらいいのか」 というご相談を頻繁にいただきます。なぜこのような差が出るのでしょうか?
文化の側面に目を向けてみる
ここで、文化の側面に目を向けてみましょう。一般的にいって、日本人は 0 から 10 までの評価を求められた際、0 や 10 など両極端の回答をすることは稀であり、中間値から少し上・下の数値を選択する場合が非常に多くみられます。
そして、あまり知られていないことですが、NPS のカテゴリー分類は、この文化的側面に大きな影響を受けます。「推奨者」(プロモーター) に分類されるのは 9 もしくは 10 と評価した回答者のみであり、6 以下の評価は 「批判者」(ディトラクター) と分類されてしまいます。このため、日本で算出した NPS は 「推奨者」 が極端に低く算出されがちです。
しかし、日本で提供されているエクスペリエンスが、他国・地域に比較して劣っているかというと、決してそのようなことはありません。「おもてなし」 という言葉にも代表されるように、顧客体験を重視する文化は十分にあり、むしろ優れた点も多いのではないかと感じます。
私は 2018 年にクアルトリクスに入社し、日本での事業を立ち上げましたが、その時期から日本の NPS スコアが他国・地域と比較すると不思議なほど低いことは認識しておりました。お客さまとお話しさせていただいた経験からも、NPS のスコア 「だけ」 で CX のパフォーマンスを評価することには問題があると感じております。
そこで、クアルトリクスのエクスペリエンス研究機関であり、エクスペリエンス管理 (XM) について多くのレポートを発行している XM Institute (XM 研究所) に対して、「国民性・文化によって、同じ好印象・悪印象を持っていた場合でも、NPS 設問への評価の付け方にギャップが発生する」 という仮説に対して、グローバル 18 カ国・地域において、消費者研究を実施してもらいました。
今回ご紹介するレポート では、それぞれの国・地域の消費者が、NPS の設問に対して回答する際の差が、明白に結果として観察できます。
世界各国・地域の NPS スコアには
大きな幅が存在する
このレポートでは、世界中の消費者が NPS の質問にどのように反応するかを検証しています。このレポートの作成にあたり、XMI では 18 カ国・地域 (各国・地域約 1,000 人) の人々に、標準的な NPS の 11 段階の回答スケールを利用し、次の 2 つの質問をしました。
「あなたが好きな会社を思い浮かべたとき、その会社を友人や親戚に勧める可能性はどのくらいありますか?」
「あなたが嫌いな会社を思い浮かべてみてください。その会社を友人や親戚に勧める可能性はどのくらいですか?」
以下の図は、結果の概要を示したものです。
この内容については、米国の XM Institute でも ブログ記事化 (英語) されており、「NPS はすべての国に適した指標ではないことを理解する」 との推奨事項が含まれています。では、どうすればよいのでしょうか?
提言 1 : 回答方法そのものに文化的な違いがある
可能性があることを念頭に置く
「他人に何かを勧めること」 が他の地域よりも一般的ではない地域では、「勧めますか?」 という質問にネガティブな反応が返ってくる可能性があります。また、同じ 11 点満点の質問であっても、どのような場合に満点をつけるのか、何点までが 「良い」 のか、何点までが 「悪い」 のかは、消費者によって解釈も異なります。ある国では、「推奨者」 と見なせるのは 6 以上のスコアをつけた回答者である一方で、別の国では 9 ・10 を選択する回答者である可能性もあります。
調整することは考えず、この違いが存在することを理解するだけで、スコアをより客観的に分析することが可能になってきます。
提言 2: 各国・地域に対し、個別の NPS 目標を設定する
NPS の測定方法が国によって異なることを考えると、すべての国に対して単一のグローバル NPS 目標を設定するのは有効とはいえません。その代わりに、各市場における現在の競争力のある NPS に基づいて、国・地域ごとの改善への取り組みと合わせて目標を設定することが有効といえます。
提言 3: 一回一回のスコアに固執するのではなく、
運用開始からどれだけスコアが改善されたかに注目する
私が最も重要だと考えるのが、「スコアに固執するのではなく、運用開始からどれだけスコアが改善されたかに注目する」 ことです。他社や他国・地域と比較してスコアの高低に一喜一憂するだけでは、状況の改善は望むべくもありません。
エクスペリエンス管理を運用するためには、自社がどのような状態であるのかを数値として測定することが非常に重要です。状況を客観的に理解した上で、改善に向けた活動を日々の業務として実践していただくことにより、それぞれの改善アクションが果たしてプラスに貢献したのか、マイナスの結果となってしまったのかを理解することができ、より具体的で効果的なアクションに繋げることができると私は考えます。
もちろん、この測定基準は必ずしも NPS である必要はなく、ニーズや業界によっては、従来の CSAT (顧客満足度) や CES (Customer Effort Score、顧客努力指標) などの指標を利用することも検討する価値があります。または、企業独自の指標を設定し、それに基づいてアクションの効果測定をしても良いかもしれません。
しかし、NPS の強みは、グローバル規模での認知度にあります。経営陣にも NPS についてご存知の方が、最近は随分と増えました。また、グローバル レベルで NPS を採用されている企業・組織も多いため、比較の基準として利用しやすいことには疑いの余地がありません。
おわりに - アクションの指針となる基準、
継続的な改善への努力とその測定
重要なのは、NPS スコアに影響を与えている可能性のある文化的背景を理解した上で、現状の改善アクションの指針となる基準を持つこと、そして継続的な改善への努力を続け、その効果を測定することです。
闇雲に数値を出し、スコアを他国・地域や競合企業と比較しながら一喜一憂するのは、スコアが一人歩きしている状態といえます。これでは、データに基づいた改善アクションを継続して実施していくことは難しいでしょう。
どのような基準値測定指標にも言えることですが、NPS にも一定の限界が存在します。しかし、使い方や一定の限界を正しく理解して取り組むことで、CX プロジェクトや改善アクションの効果を客観的・具体的に把握するための強力なツールとなります。
クアルトリクスの XM プラットフォームは、エクスペリエンス (体験) を提供する側の思いと、受け手側の気持ちの間に存在するギャップ (エクスペリエンス ギャップ) を埋めるためのソリューションです。顧客のプロファイル・属性や、状況によって設問の内容や投げかけるタイミングを最適化するなどの機能を備えており、単なるアンケートにとどまらない、より深いインサイトを収集し、さらにその差を埋める改善アクションに繋げることを可能にします。
クアルトリクスの XM プラットフォームの特長の一つとして、「他人事」 になってしまいがちな傾向がある 「全体のフィードバック」 を見るだけではなく、自分自身が関与した部分のお客さまからのフィードバックを可視化することが可能であるため、それに対してアクションをすぐに起こせます。もう一つは、組織全体で積み重ねる小さな改善アクションが見える化できるという点です。このような 「小さな積み重ね」 が NPS のスコアに反映され、結果が数値として把握できることで、組織全体としての改善度を確認することができます。
XM プラットフォームは、NPS を含む指標にも対応しており、改善アクションの実施や効果のトラッキングなどの機能も、国内外の多くの組織でご活用いただいております。是非、CX 施策にご活用いただければと思います。
注:ネット・プロモーター、ネット・プロモーター・システム、ネット・プロモーター・スコア、NPS、そしてNPS関連で使用されている顔文字は、ベイン・アンド・カンパニー、フレッド・ライクヘルド、サトメトリックス・システムズの登録商標又はサービスマークです。
ウェビナー・15 分で基礎から学び直す
CX の重要キーワード・NPS