「7 つの XM “真”ルール」というタイトルで、「企業に求められる対応力」をテーマにブログ記事を発表してから、早いもので 2 年近くという時間が経過しました。エクスペリエンス管理 (XM) という観点から重視すべき根幹の部分は変わっていないものの、「コロナ禍」という言葉ですべてが規定されていた時から、対面での接触が増えつつある昨今と、状況の変化のスピードには目を見張るものがあります。
そこで今回の記事では、「行き当たりばったりにならない臨機応変な対応をどのように実施していけばよいのか」というテーマを、2023 年に向けた視点を盛り込みつつ、皆様にご紹介したいと思います。
先を見ても予測しきれない、過去の成功に倣っても成功するとは限らないという時代が到来しています。2023 年、顧客に選ばれる・個性的な魅力を放つ企業となるために、以下のモダン XM* 7つのルールをぜひご参考ください。
*XM とは、エクスペリエンス管理 (Experience Management) の略です。
- XM指標をゼロベースで考える
まずは、XM 指標のあり方を再度見直しましょう。コロナ禍の状況に直面し、デジタル化をどの程度実現したか、デジタル チャネルの利用率や UI に対しての満足度を XM 指標として導入するなど、大きな方針転換に合わせて新しいXM指標を導入された企業様も多いことと思います。
しかし最近では、国内外への旅行が増える・物理店舗でのサービスが増えるなど、「対面」チャネルも勢いを取り戻しつつあり、お客さまの求めるものも変化しています。コロナ禍に測定していたUIの満足度からUXの満足度へ変更する、さらにはオムニチャネル全体のエクスペリエンスを測る指標を新たに導入するなど、時代・環境にあうKPIを検討することをお勧めします。
- 顧客や従業員に何を求めているのかと質問することをやめる
日本の消費者には、「声に出さない」という特徴があります。「他国・地域と比べてサーベイの回答率が低い」「NPS が低く出てしまう」というご経験をお持ちの方も多いのではないでしょうか。この理由としては、文化背景や商習慣などさまざまな要因が考えられますが、この部分の変化には時間がかかります。しかし、変えられるものも存在します。それは「聞き方」、つまり設問設計です。
お客さまに「具体的にいうと、何をどう改善してほしいのか」と尋ね、そのままフィードバックしてもらおうと思うと、この「声に出さない」文化に邪魔をされがちです。そうではなく、「目的を達成できましたか?」(Success)、「目的の達成にはどの程度負担がかかりましたか?」(Effort)、「どのような気持ちでしたか?」(Emotion) という3要素を会話調で探ることで、「声」に出されないお客さまの心模様を理解することができます。
- 経営層も率先して XM 活動に参画する
コロナ禍での混乱がピークに達していた時代には、毎週・毎日のように経営層が集結し、目前の問題にどう対処するのか議論していた企業も多いのではないでしょうか。顧客・従業員・サプライヤー・パートナーなど、あらゆる角度から情報を収集し、その時点で考えられる最善のアクションは何かと協議するメカニズムが構築されたはずです。
状況がまた変化しつつある現在では、違う課題が浮上してきています。コロナ禍がピークであった時期同様の時間を費やすことは困難・非現実的な場合もあるでしょう。
XM 活動への直接参画以外にも「XM 活動が活溌になるよう、権限委譲する」「現場メンバーが失敗を恐れず挑戦できるよう、組織内の心理的安全性を担保する」「革新的なアイディアの実行に対し、組織内で広く称賛・顕彰する」など、より短時間で実行できるアクションは数多く考えられます。
人事部やリーダー層も巻き込み、XM 推進を組織ぐるみで実施しやすくするカルチャーの醸成に取り組んでみましょう。
【ウェビナー「不確実な時代、顧客・従業員と『意義のあるつながり』を構築するには」】
- ビッグデータに依存するのではなく小さな信号を見つける
「常態」は、既に存在しません。対面のイベントなど、物理的なエクスペリエンスがある程度復活しているとはいえ、社会情勢も経済も不安定な中、今後も挑戦や変革の機会に直面することは避けられません。
これからは「先見の明」、未来を創る「小さなタネ」を発見することにも注力してみてください。フィードバックの中から先駆者 (Early Adopter) の声を見つけ、マジョリティが追いつく前に先手を打つことにより、結果に出る形で差別化を実現できるチャンスが増大します。
もちろん、マジョリティの意見を無視してよいということではありません。しかし、少数派である先駆者の小さな声の中にこそ、未来を拓くヒントがあることも多くあります。その小さな声を聴き逃すことなく、未来に活かしていきましょう。
- 定性的情報を解釈する力を育てる
高度なデータ分析を実施したとしても、収集されたデータがコロナ禍の情報であったならば、「これから」を創造するために役立つインサイトは得られないでしょう。世界的なパンデミックを経て新しい世界を創造する方向に、人の意識はシフトしてきています。
例えば、自社の EC サイトの購入プロセスに関してCES (Customer Effort Score/顧客努力指標) を測定しているケースは多いでしょう。CESの結果で改善が必要と出てくるためには一定以上の回答率があることが前提としてあります。しかし、「説明が見つからない」「手間がかかる」という声が生まれているようであれば、購入エクスペリエンスの改善が必要な状態であると気づくことができます。
この場合、説明がすぐに見つかるようにUIを改善する、説明がなくても進めるようにUXを改善するなど、お客さまの「努力」を減らし、苦労をかける時間が短くなるよう、「手間いらず」(ローエフォート/エフォートレス) でタスクが終わるように改善することが重要です。
また、この考え方をさらに推し進め、「手間なし」で終わらせることができないかを積極的に考える創造性/クリエイティビティも「力を育てる」に含めて考えてもよいですね。
- 従業員エクスペリエンスが基盤です!
「CX (顧客体験) が優先か、EX (従業員体験) が優先か、どちらなのか?」という議論が散見されるようになりました。
CX を高めるという目標の達成には、従業員の行動が必要不可欠です。しかし、「EX は人事部」「CX は営業やサービス部門」と、この2プログラムの担当部門が完全にサイロ化しており、個別実施している企業も少なくありません。同じ組織内で同じ目的に向かっている以上、切り離して考えることの方が不自然であるとさえいえるかもしれません。「EX のどのような部分を改善すると、CX が上昇するのか?」 と、連動させて考えることが重要です。
- 前向きに、常にポジティブな思考でいることを宣言する
「コロナ禍」というひとつのパンデミックは、ある意味での終焉を迎えているといえるかもしれません。しかし、先の見えない世界情勢や社会不安に加え、新たに「経済的ストレス」が重くのしかかっている状況といえます。今まででは許容範囲だった事柄でも、インパクトが重くのしかかり、悲観的になってしまうこともあるでしょう。しかし、そんな時だからこそ、気持ちを強く持ち、前向きに、ポジティブでいることをいつも以上に心がけることが必要です。皆さんご自身が心身ともに健康でいられるよう、ご自分で工夫して活動しましょう。そして、感謝の気持ちやポジティブさを広めていきましょう。
つまるところ
「理性で知ることは、感情で好むことの深さに及ばない。感情で好むことは、全身を打ち込んで楽しむことの深さに及ばない。」という孔子の名言があります。これは、何事も楽しんで行うことの重要さと、そこから発揮される大きな力をよく表しています。
XM も、経営層が率先して・ポジティブな気持ちで課題に取り組む、成功に対してだけでなく、失敗に対しても挑戦のマインドセットを賞賛する・協力体制を整えるなど、従業員が楽しく・心理的安全性が確保された状態で毎日の業務に取り組み、挑戦できる状態にあると、今の時点では考え付きもしなかった CX 施策が生まれてくる素地ができ、お客さまに求められる企業へと成長していきます。2023 年という挑戦の年を乗り越えるだけではなく、楽しむ気持ちを持ちながら前進していきましょう。
※このブログは、クアルトリクス XM Institute によるブログ "Seven Bold Experience Management Moves for 2021" を基に、2023 年に向けた内容に更新されました。
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